2025年7月30日水曜日

就活におけるグループワーク)【第46話】「沈黙の勇気」

【第46話】「沈黙の勇気」


 「じゃあ、次はアイデア出しに入ろうか」リーダーの真紀が言うと、場に静寂が落ちた。誰もが何か言わなきゃと思っているのに、言葉が出てこない。

 そんな中、黙っていた遥が、意を決したようにノートを開いた。「あの……こんな案、どうですか?」その声は小さかったが、明確だった。視線が一斉に彼女に集まり、空気が動く。

 「それ、面白い!」と誰かが言い、他のメンバーも次々に意見を乗せていく。沈黙を破った一言が、アイデアの連鎖を生んだ瞬間だった。

 グループワークにおいて、大きな声や派手な発言だけが価値ではない。静けさの中にある“思い切り”もまた、チームを動かす力になる。 

就活におけるグループワーク)【第45話】「頼る」ことが強さになる

【第45話】「頼る」ことが強さになる


 プレゼン準備の締切が迫る中、真由は作業の遅れに焦っていた。

「自分の担当だから」と黙々と一人で抱え込み、夜遅くまで資料とにらめっこ。

そんな様子に気づいたのは、いつも穏やかな彩花だった。

「無理しないで。手伝えることあるよ」と声をかけられ、思わず涙ぐむ真由。

「ありがとう……」と絞り出すように答えたとき、不思議と肩の荷が軽くなった気がした。

 人に頼ることは、甘えじゃない。

仲間を信じること、助けを求めることもまた、大切なチームの力だと気づけた一日だった。 

2025年7月29日火曜日

就活におけるグループワーク)【第44話】「ひとこと」が変える空気

【第44話】「ひとこと」が変える空気


 グループワークでの議論が白熱しすぎて、場の空気がピリついてきたときだった。

静まり返る一瞬、慎太郎がふっと笑って「でも、なんか、学生のうちにこんなに真剣に話し合えるって貴重だな」とぽつり。

その言葉に皆が一瞬驚き、そしてふわっと笑顔になった。

「そうだね」「確かに」と、場の雰囲気が一気にやわらぎ、議論は建設的な方向へと動き出す。

 感情が行き過ぎそうになる場面で、ふとした「ひとこと」が状況を変えることがある。

誰かが空気をやわらかくできる、それだけでチームはまた前を向ける。

それを体感した一日だった。

就活におけるグループワーク)【第43話】いつも黙っていた彼が

【第43話】いつも黙っていた彼が


 グループワークも終盤に差し掛かったある日。

発表準備が進む中で、いつも口数の少なかった柏木くんが、ふと手を挙げた。

「…僕、実はこんな資料を作ってたんだけど…」

彼がそっと出した資料には、私たちの議論の流れや、他のチームとの差別化のポイントが丁寧にまとめられていた。

 驚きと同時に、チーム全員の表情が変わった。

「すごい…なんで今まで言わなかったの?」

「いや、みんなが一生懸命だったから…水を差しちゃいけないかと思って…」

 その日から、柏木くんは発言が増えた。

きっと、あの一歩が彼の中の扉を開いたのだろう。

グループワークは、誰かの「変わるきっかけ」にもなる――そう感じた一日だった。 

2025年7月28日月曜日

就活におけるグループワーク)【第42話】議論を止めた沈黙

【第42話】議論を止めた沈黙


 グループ内での話し合いが白熱していた。誰もが自分の意見を押し通そうとして、声が重なり合う。

そんな中、空気がピタリと止まった。

普段あまり発言しない南が、唐突に手を挙げたのだ。

 「ちょっと、いいですか」と、静かに言葉を選びながら話し始める南。

「どの案が正しいとかじゃなくて、今、誰かの意見を否定するような空気になっていませんか?」

その一言に、一同は黙り込む。誰もが、自分が少し熱くなっていたことに気づいたのだ。

 沈黙のあと、「ごめん」と誰かが口にした。空気がやわらぎ、南の一言が議論を進めるための“場”を整えてくれた。 

就活におけるグループワーク)【第41話】置いてけぼりの声が聞こえた

【第41話】置いてけぼりの声が聞こえた


 グループワークも終盤、発表内容の整理が進む中、椎名はふと、静かに俯く佳奈の様子に気づいた。

「何か意見ある?」と声をかけると、佳奈は小さく首を振った。けれど、目は何かを言いたそうに揺れていた。

「実は…」と、ようやく言葉をこぼした佳奈は、最初のアイデア段階で提案した自分の意見が、そのまま誰かの案として採用されていることに、少しだけ引っかかっていたのだった。

 「言ってくれてよかった」と椎名は返す。話し合いの場に戻ったとき、彼は皆に向かって「最初のアイデアの出どころ、覚えてる?」と問いかけた。

その一言で空気が変わり、佳奈の目にほんの少し光が戻った。 

2025年7月27日日曜日

就活物語「留学経験よりも光った“現地の気づき”」

就活物語
「留学経験よりも光った“現地の気づき”」


 「留学って、就活で本当に評価されるんですか?」

そう相談に来たのは、国際系の学部に通うミサキさん。3年次に半年間、ヨーロッパに留学していたという。

 「正直、英語力に自信はないし…周りにも帰国子女とか多いので、あまり話す意味があるのかと」

 だが、私は留学そのものではなく、「どんな経験をし、何を感じたか」を聞いてみた。

 彼女は少し考えてから話し始めた。現地の学生とのグループワークで、納期に対する意識の違いや、議論の進め方の多様性に驚いたこと。最初は戸惑いながらも、徐々に相手の文化や意見を尊重する姿勢を学んでいったこと。

 「“正しさ”って一つじゃないんだって、すごく実感しました」

 その言葉に、私はハッとした。語学力以上に、グローバルな視野と対話力こそ、今の社会に必要な力だと感じた。

 企業の国際部門とのマッチング面談後、「ぜひ会ってみたい」と言われたとき、私は心の中でうなずいた。 

働くことを考える「人であふれた駐車場」

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どんな思いをもって

働くのか

何に働く価値を見いだすのか

 

2025年7月26日土曜日

就活物語「学生起業の経験が面接で輝いた瞬間」

就活物語
「学生起業の経験が面接で輝いた瞬間」


 キャリア相談で出会った四年生のショウタ君。自己PRの添削をしていたとき、「実は学生時代に小さなEC事業を立ち上げていて…」と何気なく口にした。

 詳しく話を聞くと、高校時代から趣味で始めたハンドメイド商品の販売を、大学進学後に本格化。商品の仕入れから梱包、発送、売上管理、SNS運用まで、すべて一人でこなしていたという。

 「特に数字が伸びなかった時期に、顧客アンケートを取って改善したら売上が2倍になって、自信がつきました」

 その経験を、就職活動ではあまり語っていなかったようだったが、私はこう伝えた。

「その話、面接官は絶対に聞きたいと思うよ」

 実際、第一志望の企業の最終面接でこの話をしたところ、「ビジネス感覚のある人材だ」と高く評価されたという。

 一見目立たない学生でも、実は企業が求める力を持っている。気づき、引き出すことこそキャリア支援の役割だと、私は改めて思った。


#学生起業
#就職支援
#面接のコツ 

働くことを考える「レジ打ちの女性」

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仕事

働くこと

 自分の将来

考える参考に

2025年7月25日金曜日

就活におけるグループワーク)【第40話】“沈黙”を怖がらないという勇気

【第40話】“沈黙”を怖がらないという勇気


 グループワークの終盤。

討論がひと段落したあと、突然の沈黙が訪れた。

誰もが何か言わなきゃと焦るように、目を合わせずに視線を泳がせている。

その中で、圭太はあえて口を開かなかった。

焦らず、手元のメモを見ながら、じっと考える。

しばらくして、静かに言った。

「いま、意見をまとめている時間も必要かなって思った」

その言葉に、チームがふっと力を抜いた。

「確かに、詰め込みすぎてたかも」

沈黙は時に、不安を呼ぶ。

けれど、沈黙に意味を与えることで、場の空気は整う。

それは、言葉よりも深くチームを支える“勇気ある選択”だ。 

就活におけるグループワーク)【第39話】“やりたい”と“できる”の狭間で

【第39話】“やりたい”と“できる”の狭間で


 グループワークの途中、悠真はずっとそわそわしていた。

「発表、オレがやってもいいよ」

突然そう口にしたとき、仲間たちは少し驚いた顔をした。

「やってみたいとは思ってた。でも、うまく話せる自信がなくて…」

その言葉に、グループの空気が変わる。

「じゃあ、みんなで練習しようよ」

「要点、私がまとめ直すから」

仲間たちが自然とフォローし始めた。

“できるかどうか”ではなく、“やってみたい”という気持ちに、全員が寄り添った。

その姿勢が、チームを強くする。

グループワークとは、誰かの挑戦を、みんなで育てる場なのだ。 

2025年7月24日木曜日

就活におけるグループワーク)【第38話】“まとめ”を任されるプレッシャー

【第38話】“まとめ”を任されるプレッシャー


 「じゃあ、まとめ役は佐久間くんでいい?」

その言葉に、佐久間は思わず顔をこわばらせた。

「え、オレでいいの?」

いつも冷静に聞いてくれているから──という理由で、なんとなく選ばれた気がした。

プレッシャーは静かに肩にのしかかる。

「どうやってまとめればいいんだ…」と焦りがよぎる中、

隣の春菜が、メモをそっと見せてくれた。

「これまでの流れ、ざっくり整理してみたよ」

その一言に、胸が少しだけ軽くなった。

「ありがとう…少しずつ、やってみるよ」

まとめ役は、完璧な整理人である必要はない。

“手助けを受けながら形にしていく”ことが、何より大事な力になるのだ。

就活におけるグループワーク)【第37話】「聞き役」にも、リーダーシップは宿る

【第37話】「聞き役」にも、リーダーシップは宿る


 話し合いが白熱する中、志保は一言も話さず、静かにうなずいていた。

「意見、ある?」と聞かれても、「今はまだ…」と笑うだけ。

けれど、グループの中で空気がとげとげしくなり始めたとき──

志保が、ゆっくり口を開いた。

「たぶん、それぞれの意見、そんなにズレてないと思う」

皆が一斉に志保を見る。

「みんな、“〇〇を良くしたい”って思ってるよね?」

驚くほど的確に、全員の発言を要約していた。

「…聞いてくれてたんだな」

「ちゃんと、見ててくれてたんだな」

静かな“聞き役”が、チームをまとめることもある。

それは、誰よりも“場を信じている人”のリーダーシップだ。 

2025年7月23日水曜日

就活におけるグループワーク)【第36話】“怒り”の奥にあるものに気づけたら

【第36話】“怒り”の奥にあるものに気づけたら


 討論が白熱する中で、航が突然声を荒らげた。

「だから、それじゃ現実的じゃないって言ってるだろ!」

その瞬間、空気が凍りつく。

誰もが口を閉ざし、話し合いはストップ。

「…ごめん」と航はうつむいた。

そのあと、誰かがそっと言った。

「意見を否定されたんじゃなくて、“みんなでうまくやりたい”って気持ちが強いんだよね」

航は、小さくうなずいた。

「うまく言えなかったけど、なんか焦ってた」

怒りの感情の奥にある、“伝えたい”という願い。

それに気づけたとき、チームの結束はぐっと深まる。

グループワークは、感情との向き合い方も、学びのひとつだ。 

就活におけるグループワーク)【第35話】“メモ魔”がチームを救うとき

【第35話】“メモ魔”がチームを救うとき


 美咲は、グループワーク中ずっとメモを取っていた。

会話にあまり入らず、静かにペンを走らせていたため、最初は「大丈夫かな?」と思われていた。

だが、発表の準備に入ったとき、誰もが混乱した。

「えーと…さっき何て言ってたっけ?」

「どのアイデアを採用したんだっけ?」

そのとき、美咲が静かに言った。

「時系列で、要点まとめてるので、これ見てください」

ノートには、発言者名・内容・議論の転換点が丁寧に記されていた。

「すごい…!」「これがあれば、まとめやすい!」

チームは一気に動き出した。

発言しなくても、“全員の思考を支える”参加の形がある。

それが、グループの土台になることもあるのだ。

2025年7月22日火曜日

就活におけるグループワーク)【第34話】“ひとこと”が、議論をつなぎ止める

【第34話】“ひとこと”が、議論をつなぎ止める


 「それで…どうする?」

議論が停滞し、誰も口を開かなくなった。

アイデアは出た。意見も出た。けれど、整理されないまま時間だけが過ぎていく。

誰かが言いかけて、やめて、また沈黙。

そんなときだった。

詩織がポツリとつぶやいた。

「…つまり、私たちは“何を”決めきれてないのかな?」

そのひとことが、空気を変えた。

「たぶん、“軸”がバラバラなんだと思う」と誰かが返す。

「じゃあ、“優先順位”を一回見直してみる?」

少しずつ、言葉がほぐれていく。

グループワークでは、沈黙を破る“問い”が流れをつくる。

それは、立派なファシリテーションの技術だ。 

就活におけるグループワーク)【第33話】「賛成です!」だけじゃ、もったいない

【第33話】「賛成です!」だけじゃ、もったいない


 「その意見、賛成です!」

沙也加が明るく言った瞬間、チーム全体が少し和んだ。

誰かの意見に同調することは、雰囲気をよくする魔法の言葉だ。

けれど──そのあとが続かない。

「賛成だけど、どこが良いと思ったの?」

と、隣の倫也が問いかける。

「うーん…たしかに。なんとなく“いいな”って思っただけかも」

自分の“なんとなく”を言語化することは、実は一番の思考訓練だ。

「直感的に良いと感じた理由を一緒に考えようよ」

そんな流れが生まれたとき、グループは“ただの共感”から“共有された納得”へと変わっていった。

グループワークでは、“賛成”も立派な意見になる──育てれば、もっと強く。

2025年7月21日月曜日

就活におけるグループワーク)【第32話】“進行役”の苦しみは、孤独の中にある

【第32話】“進行役”の苦しみは、孤独の中にある


 「じゃあ、まずは意見出しから始めましょう」

そう言って、グループワークを進めていたのは進行役の大樹。

だが、発言は少なく、沈黙が続く。

「どう思いますか?」と水を向けても、「うーん…」と目を伏せられる。

誰も答えてくれない時間が、やけに長く感じられた。

内心、「なんで誰も話してくれないんだよ…」と叫びたかった。

けれど、次の瞬間、隣の紗耶がそっと言った。

「進めてくれてありがとう。大変だよね。でも、助かってる」

その言葉に、大樹の背中が少しだけ伸びた。

進行役は、決して“指示を出す人”ではない。

誰よりも“迷いながら支える人”だ。

その苦労に気づき、声をかけ合えるチームでありたい。 

就活におけるグループワーク)【第31話】“ふりかえり”にこそ、成長の芽がある

【第31話】“ふりかえり”にこそ、成長の芽がある


 発表を終えた後、グループの誰もがちょっとした達成感を感じていた。

「おつかれさま!」と声をかけ合い、荷物を片づけ始めたそのとき──理人が言った。

「ちょっとだけ、今回の振り返りしない?」

え? もう終わったのに? という空気が一瞬流れたが、彼は続けた。

「自分では気づかなかったけど、途中で話を遮っちゃってたかもって…」

その一言を皮切りに、

「あ、私も発表の構成、もっと早く共有すればよかったな」

「次は、意見を引き出す役回りやってみたいかも」

そんな声が自然と上がった。

グループワークの本当の学びは、やり終えた“あと”にこそ眠っている。

2025年7月20日日曜日

就活物語「プレゼン経験が自信に変わった学生」

就活物語
「プレゼン経験が自信に変わった学生」


 三年次に参加した学外のプレゼン大会。その話をしてくれたのは、リツコさんという女子学生だった。

最初は「人前で話すのが苦手だった」と言っていた彼女が、発表したテーマは「Z世代の消費行動分析」。ゼミ仲間とチームを組み、大学外の専門家も審査員として参加する大会に挑戦したという。

 「最初は資料作りも話し方も自信がなかったんです。でも、フィードバックを受けながら何度もブラッシュアップしていって…」

 彼女がスマホで見せてくれた発表スライドは、情報が整理されており、グラフや図解も見やすく洗練されていた。

 「一番嬉しかったのは、“説明がわかりやすい”って言ってもらえたことでした」

 その経験は、単なるスキル以上の自信になったようだった。

 「苦手なことを避けずに、自分なりに向き合って形にしたこと。その姿勢が、企業の方にも響くと思うよ」

 私はそう声をかけた。

 後日、企業の説明会で彼女が質問をする様子を見かけた。話し方に自信がにじみ、言葉に重みがあった。あのプレゼン経験が、彼女の“軸”になっていることが伝わってきた。


#プレゼン経験
#苦手克服
#就活成長記

2025年7月19日土曜日

就活物語「アルバイト経験を語る学生の説得力」

就活物語
「アルバイト経験を語る学生の説得力」


 「特別なインターン経験も、留学もしていません」と言いながら、目を輝かせて話す学生がいた。

四年生のシュウヤ君。彼が語ってくれたのは、3年間続けたコンビニのアルバイトの話だった。

 「深夜帯のシフトだったので、トラブル対応もありました。酔ったお客さんの対応、発注ミスのフォロー、急な欠員でワンオペの夜も…。でも、店長に相談して業務マニュアルを作ったら、新人の定着率が上がったんです」

 一見、どこにでもある話。でも、聞いているうちに、彼がただ働いていたわけではないことが伝わってきた。目の前の問題にどう向き合い、何を考えて行動したか。それが言葉ににじんでいた。

 「この仕事で、“段取りの力”と“気づく力”が鍛えられました」

 私はうなずいた。彼の言葉には、実体験が裏打ちされていた。特別な舞台でなくても、日々の経験を深く掘り下げて語れる学生は強い。

 企業と面談を調整した際、担当者は履歴書の一文に目を留めた。

「この子、アルバイトを単なる“バイト”で終わらせてないですね」

 そのひと言が、すべてを物語っていた。


#アルバイト経験
#自己分析力
#成長ストーリー

2025年7月18日金曜日

就活におけるグループワーク)【第30話】“言葉にする”ことで、場がひらける

【第30話】“言葉にする”ことで、場がひらける


「なんか、まとまりそうでまとまらないね…」

議論が空回りし始め、沈黙が増えていった。時計の針は残り10分を示していた。

そのとき、恵梨香がぽつりと口を開く。

「たぶん、みんな言いたいことはあるんだけど、“これで合ってるか”不安なんだと思う」

一同、顔を上げた。

「だから、一度“今考えてること”を全部、紙に書き出してみない?」

その提案で、それぞれの思考が可視化され、思わぬつながりや方向性が見えてきた。

「言葉にしないと、誰にも届かないんだな」

そう呟いた誰かの一言が、チーム全体の背中を押していた。

グループワークでは、“声にならない意見”にも形を与える仕組みが必要だ。

就活におけるグループワーク)【第29話】気づきは、会話の“余白”から生まれる

【第29話】気づきは、会話の“余白”から生まれる


「あと5分で発表準備に入ろう」と、話し合いが終わりかけたそのときだった。

真由がふとつぶやいた。

「今さらなんだけど…私たち、なんでこの案を選んだんだろう?」

一瞬、空気が止まる。

でも、それは“後戻り”ではなかった。

「たしかに…なんとなく流れで決めたかも」

「もう一度、他の案と比べてみる?」

残り時間ギリギリの中、改めて考え直したことで、より本質的な意見にたどり着くことができた。

「もう決まったから」と蓋をしてしまう前に、ちょっとだけ立ち止まる勇気。

グループワークでは、そうした“余白”の時間こそが、チームを深める鍵になる。

2025年7月17日木曜日

就活におけるグループワーク)【第28話】沈黙は、無言の“肯定”かもしれない

【第28話】沈黙は、無言の“肯定”かもしれない


グループワークが始まって20分。隣の席の綾音は、ほとんど話していなかった。

意見を求めても「うーん、まだちょっと…」と首を傾げる。

リーダー役の慧は少し焦っていた。

でも、ふと綾音のメモを見ると、話された意見を丁寧に整理し、矢印や囲みで視覚化していた。

「それ、すごく分かりやすいね」と慧が声をかけると、綾音は恥ずかしそうに笑った。

「話すの苦手で…でも、聞いてはいます」

そのあと、綾音は「この意見とこの意見、つながりませんか?」と初めて言葉を発した。

それは、場を前進させる一手だった。

話さない人が“何もしていない”とは限らない。

沈黙の裏にも、熱心な参加があることを忘れてはいけない。

就活におけるグループワーク)【第27話】“正しさ”の前に、“まず聞く”姿勢

【第27話】“正しさ”の前に、“まず聞く”姿勢


「いや、それは違うんじゃない?」

話し合いの途中、海翔の声が強めに響いた。

議論の方向性を修正しようとしたのだが、空気がピリつく。

その瞬間、隣にいた仁菜が小さくつぶやいた。

「…まず最後まで聞こう?」

一瞬の沈黙。そのあと、海翔が小さく「ごめん」と頭を下げた。

仁菜は続けた。

「違うって思っても、相手の話の“どの部分”が違うかをちゃんと聴いたほうが、建設的な議論になると思う」

それは、ルールでもマナーでもなく、“チームで考える”ための基本だった。

グループワークでは、意見の正しさ以上に、対話の“土台”を大切にする姿勢が問われる。

2025年7月16日水曜日

就活におけるグループワーク)【第26話】「言い切る」勇気、「任せる」信頼

【第26話】「言い切る」勇気、「任せる」信頼


「じゃあ発表、誰がいく?」

残り時間3分。誰も手を挙げない。

空気がピリつく中、陽斗がスッと手を上げた。

「じゃあ、俺がやる」

少し驚いた顔でメンバーが見つめる。

「さっきの話、こういう順でまとめたら伝わりやすいと思ってて──」

紙に書いた構成を見せながら、言葉をつなぐ陽斗。

「異論なければ、この流れで話すね?」

誰かが言った。「うん、それでいこう!」

“やってみる”と“やります”の違いは、聞く側に安心をもたらす。

そして、任せる側にも信頼が生まれる。

グループワークの発表は、「覚悟ある一歩」と「信じて委ねる力」の両方で成り立っている。

就活におけるグループワーク)【第25話】“時間配分係”の見えない貢献

【第25話】“時間配分係”の見えない貢献


「あと10分です」と、声をかけたのは咲良だった。

特に決めていたわけではないが、議論中ずっと時計を見て、進行のリズムを整える役を自然に引き受けていた。

「あと5分で結論出そう」「発表の準備もそろそろしようか」

その一言が入るだけで、グループは慌てずに次のフェーズへ移っていけた。

議論が盛り上がっていても、時間が足りなくてバタバタしてしまうことは多い。

でも、咲良がいてくれたおかげで、今回は“流れ”が途切れなかった。

グループワークには、目立たないけれど重要な役割がある。

時間を読む力も、立派な“ファシリテーション”だ。

2025年7月15日火曜日

就活におけるグループワーク)【第24話】「それ、前に言ってたよね?」の真価

【第24話】「それ、前に言ってたよね?」の真価


 「さっき言ったことと、少しかぶるけど…」

 議論の途中、裕斗がそう言いながら発言しようとしたとき、周囲が微妙な表情になった。

 その瞬間、「あ、それ前に言ってたよね?」と真っ直ぐに言ったのは結衣だった。

 一瞬、空気が凍る。

 だが彼女はすぐに続けた。

 「でも、たぶん、その“前に言ってたこと”が、やっぱりこのテーマの核なんじゃないかなって思って」

 思い出したように、全員がうなずく。

 「たしかに、ずっとその視点に戻ってきてるよね」

 それは「繰り返し」ではなく「軸」の再確認だった。

 同じ言葉が何度も出てくるとき、それは“ぶれていない”というサインかもしれない。

 グループワークは、“正しさ”よりも“重なり”に意味が宿る。

就活におけるグループワーク)【第23話】「見えている景色」が違うという強み

【第23話】「見えている景色」が違うという強み


 プレゼンテーマは「都市と地方の働き方の違い」。

 都市部出身のメンバーが「リモート前提」「通勤ストレス」などを話す中、真琴は黙って聞いていた。

 そして、ふと語り出す。

 「私は、最寄りのバスが1時間に1本の地域で育ちました。だから“通勤”というより、“移動そのもの”がすでに働き方に影響してて…」

 一同が静まり返る。

 「ネットがあっても、そもそも“仕事が来ない”という課題もあって──」

 その話をきっかけに、都市と地方の“格差”ではなく、“違い”として議論が進みはじめた。

 自分の背景から語ることは、視野を広げ、チームに新しい地図をもたらす。

 グループワークの価値は、多様な「見えている景色」を持ち寄ることにある。

2025年7月14日月曜日

就活におけるグループワーク)【第22話】感情が動いたとき、場も動く

【第22話】感情が動いたとき、場も動く


 「うまくまとめなきゃ」「論理的に話さなきゃ」

 そう思えば思うほど、正解を探すような意見が並ぶ。

 そのとき、沙耶がぽつりと語った。

 「私は、家族が介護をしていて、働き方ってすごく難しい問題で…」

 一瞬、空気が変わった。

 今まで“正しいこと”を言おうとしていた空間に、“ほんとうの声”が流れ込んだ。

 それに呼応するように、他のメンバーも自分の体験を語りはじめ、議論が一気に深まっていった。

 グループワークに必要なのは、知識や模範解答だけじゃない。

 自分の中にある“リアル”を持ち寄ることで、初めてチームに血が通い出すのだ。

就活におけるグループワーク)【第21話】「その視点なかったわ」がチームを強くする

【第21話】「その視点なかったわ」がチームを強くする


 議論は順調に進んでいるように見えた。

全員が似たような意見を出し合い、順調に合意が取れている──でも、どこか違和感があった。

 そこで、慎が口を開いた。

 「ちょっと逆の立場で考えてみてもいいですか?」

 それまでの前提をあえて覆すような視点に、最初は戸惑いがあったものの、次第に場がざわめき始める。

 「それ、おもしろいかも」

 「確かに、そっちの立場から見ると違うね」

 話し合いの“深さ”が一気に増し、結論に説得力が宿った。

 ただ賛成するだけでは生まれなかった、新たな視野。

 グループワークでは、あえて“逆張り”してみる勇気が、チームの幅を広げてくれるのだ。

2025年7月13日日曜日

就活物語「グループワークで際立ったリーダー力」

就活物語
「グループワークで際立ったリーダー力」


 キャリアセンターで開催した学内グループワーク型イベント。5人1組で課題解決型のワークに取り組む中、一人の女子学生、ナナミさんが印象に残った。

 彼女は最初から前に出て指示を出すタイプではなかったが、議論が行き詰まると、誰よりも柔らかく場を整理した。

 「今の意見、こういう視点でまとめてみるとどうでしょう?」

 その言葉にチームメンバーの表情が変わり、空気が流れ出した。誰かを否定せず、でも話を進める力。調整力と、自然に人を動かす力。

 終了後の企業の講評でも、彼女の名前が挙がった。

 「リーダーというより、舵取り役。こういう学生と一緒に働きたい」

 企業が求める“協働力”とは、まさにこういう力だと感じた。ナナミさんのような存在が、組織に信頼と安心感をもたらすのだろう。


#グループワーク
#リーダーシップ
#協働力

2025年7月12日土曜日

就活物語「インターン経験が光った学生の一言」

就活物語
「インターン経験が光った学生の一言」


 キャリア面談中、三年生のカズト君が話してくれた。

 「昨夏のインターンで、営業チームに配属されて…」という言葉から、私は耳を傾けた。彼は決して声が大きいわけでも、自己主張が強いタイプでもない。ただ、一つひとつの言葉に実感がこもっていた。

 「最初は電話も怖かったんです。でも、“どこでつまずいたか”をメモして、先輩に相談して、少しずつ慣れました」

 その様子が目に浮かぶようだった。成果だけでなく、どう工夫して、どう動いて、どう乗り越えたか。

 「相手の名前を“メモして覚える”だけで、返事の声が違うって気づいたんです」

 私は思わず「それは営業にとって大事な気づきだね」と返した。彼の話には、実務への理解と、自分なりの工夫があった。

 企業の方とマッチングを調整するなかで、私は迷わず彼を推薦した。「この学生さんは、どこでも歓迎される」と確信していた。


#インターン経験
#営業志望
#学生の成長

2025年7月11日金曜日

就活におけるグループワーク)【第20話】最後のひとことが、すべてを変える

【第20話】最後のひとことが、すべてを変える


 「もう時間ですね。発表、どうまとめましょう?」

 残り時間5分。誰かが代表して発表内容をまとめようとするが、うまく整理ができず、全員が焦っていた。

 そんなとき、隅で静かにしていた圭吾が、ぽつりとつぶやいた。

 「結局、“働きやすさ”って、“選べる自由”なんじゃないかな」

 それは、議論の中でバラバラだった意見をつなぐ、たったひとつの軸だった。

 全員が「それだ!」と膝を打ち、瞬く間に発表の構成が決まっていった。

 会話の中心にならなくても、誰かが最後に放った一言が、チームの核心になることがある。

 グループワークにおいて、「遅すぎる言葉」なんて存在しないのだ。

就活におけるグループワーク)【第19話】“発言しない”という選択もある

【第19話】“発言しない”という選択もある


 グループディスカッションが始まり、メンバーたちは次々に意見を出していった。

 その中で、一言も発しない千聖。

 司会が「千聖さん、どうですか?」と振っても、「今は特に…」と控えめに返すだけ。

 「何も考えていないのかな」と誰かが思った──そのとき。

 終了後、企業担当者が言った。

 「みなさんのやりとりを観察していました。発言の量ではなく、相手の話をどう受け止めているかが大事です」

 千聖は終始、相手の目を見て、うなずき、メモをとっていた。その姿勢は確かに“参加”していた。

 グループワークは、声の大きさで勝負する場じゃない。“聞く力”だって、立派な評価対象だ。

2025年7月10日木曜日

就活におけるグループワーク)【第18話】うまく話せなかったけど、伝わった

【第18話】うまく話せなかったけど、伝わった


 話す順番が回ってくるのが怖かった。

 楓は、グループワークでうまく話せた試しがなかった。声が小さくなり、言いたいことの半分も言えずに終わることが多かった。

 今回もそうだった。途中で言葉に詰まり、「あ、すみません」と目を伏せて終えてしまった。

 ところが──

 「さっきの話、もっと詳しく聞きたいです」と言ったのは、隣にいた咲人だった。

 「表現がすごくリアルだったから、逆に印象に残った」

 そのひとことで、胸がじんわりとあたたかくなった。

 話すのが得意じゃなくても、心から出た言葉は、ちゃんと誰かに届いている。

 グループワークで大切なのは、上手さじゃなく、“まっすぐさ”なのかもしれない。

就活におけるグループワーク)【第17話】自分の「ふつう」は、誰かの「すごい」

【第17話】自分の「ふつう」は、誰かの「すごい」


 「このテーマ、難しいですね…」

 議題は「新しい働き方」。みんながスマートに意見を出すなか、麻衣はなかなか言葉が出なかった。

 ようやく発言したのは、終盤だった。

 「私は、地元の商店街でアルバイトしてるんですけど、お客さんとの会話が仕事の一部で…。そういう“雑談”がある働き方って、案外大事かもって思いました」

 静かに語ったその言葉に、メンバーが一斉にうなずいた。

 「それ、いい視点ですね」

「確かに。デジタルじゃ代替できない部分かも」

 麻衣が当たり前だと思っていた日常は、他の誰かにとっての“新鮮な気づき”だった。

 グループワークでは、「特別な経験」よりも、自分の“ふつう”をどう語るかが、力になる。

2025年7月9日水曜日

就活におけるグループワーク)【第16話】役割がなくても、価値はある

【第16話】役割がなくても、価値はある


 「じゃあ、進行は私がやるね」「発表は俺がいくよ」

 テキパキと決まっていく役割分担。気づけば、春翔には何も残っていなかった。

 「自分がいなくても、このチームは回るな……」

 そう思ったとき、少しだけ胸がチクッとした。

 でも議論が進むうちに、春翔は小さな「問い」を投げかけるようにした。

 「それって、こういう意味?」「さっきの話とつながるかも」

 気づけば、誰かの意見を深めたり、議論の流れをつなげたりしていた。

 「春翔くんの質問、めっちゃありがたかった」

 最後に言われたその言葉に、不意に胸があたたかくなった。

 役割がないことは、無価値じゃない。自分にしかできない関わり方が、きっとある。

就活におけるグループワーク)【第15話】「何もしてない」は、本当に何もしてないのか?

【第15話】「何もしてない」は、本当に何もしてないのか?


 「ごめん、私…今日は何もできなかった気がする」

 グループワークが終わったあと、静かにつぶやいたのは遥だった。

 たしかに、リーダーをしたわけでもない。発表を担当したわけでもない。

 でも、周囲の誰かが詰まりかけたとき、遥はさりげなくペンを差し出し、メモを取って渡し、水を取ってあげていた。

 空気が張りつめた瞬間には「まあまあ」と笑って場をやわらげていた。

 それに気づいたメンバーのひとりが、帰り際に言った。

 「遥ちゃん、今日めちゃくちゃ助かったよ。いないとまとまらなかったと思う」

 「何もしてない」なんてことは、きっとない。誰かの見えない働きが、チームをちゃんと動かしている。

2025年7月8日火曜日

就活におけるグループワーク)【第14話】「書く」ことで、つながる

【第14話】「書く」ことで、つながる


 話し合いが始まってしばらくしても、議論はどこかかみ合わなかった。

 誰かが話せば誰かがかぶせ、意見の方向もバラバラ。焦る空気だけがテーブルを覆っていた。

 そのとき、メモをとり続けていた奈々が、ノートをくるりと裏返して皆に見せた。

 「今まで出た意見を、こんな感じで整理してみたんだけど──」

 そこには、矢印とキーワードでつながれた図があった。

 「この二つ、実は似てるかもって思って」

 その図を見て、全員の視線が一点に集まる。そして「たしかに!」と、次々に反応が返ってきた。

 “話す”ことばかりに集中していたグループが、“見る”ことで初めてひとつになった瞬間だった。

就活におけるグループワーク)【第13話】沈黙の3分間

【第13話】沈黙の3分間


 「それでは、これからグループで自由に議論してください」

 司会の合図で始まったはずの話し合い。だが、開始早々、テーブルを囲む4人の間に沈黙が流れた。

 誰かが話すのを待っている。でも誰も、最初の一言を発さない。

 1分、2分、時間だけが過ぎていく。焦りと不安が胸を締めつける。

 ──そのとき。

 「……この沈黙、もったいないよね」

 小さな笑みとともに、拓海がつぶやいた。場がふっと緩み、空気が動き出す。

 「たしかに。じゃあ、何から話す?」

 笑いが起き、話題が生まれ、ようやく議論が始まった。

 沈黙は怖い。でも、それを破るのは、大きな声や立派な意見じゃなくて、たったひとことの“本音”だったりする。

2025年7月7日月曜日

就活におけるグループワーク)【第12話】“まとめる”ことは、決めることじゃない

【第12話】“まとめる”ことは、決めることじゃない


 「結局、どれにする?」

 議論が白熱し、それぞれが意見を出し合ったあと、誰かがぽつりと言った。

 全員が黙り込む。どの案も、それぞれに良さがあって、優劣をつけにくい。

 そんな中、リーダー役の優斗が静かに口を開いた。

 「どれもいい意見だと思う。だから無理にひとつに決めなくても、複数を組み合わせて新しい案にしない?」

 その言葉に、場がふわっと和らいだ。

 グループワークの「まとめ役」は、ひとつの正解を決める人じゃない。多様な意見の“間”に橋をかける人だ。

 話し合いの最後、ホワイトボードに書かれた案は、チーム全員の色が混ざった、美しいグラデーションのようだった。

就活におけるグループワーク)【第11話】その“うなずき”が、救いになる

【第11話】その“うなずき”が、救いになる


 「私は……その、あんまり自信ないんですけど──」

 緊張した面持ちで話し始めたのは、里奈だった。グループワークでようやく手を挙げたものの、声が小さくて自分でも聞き取れないほどだった。

 そのとき、対面にいた光一が、うなずきながらじっと彼女を見ていた。

 口を挟まず、相づちもせず、ただ「聞いている」というサインを送り続けてくれた。

 その安心感に背中を押されるように、里奈の声は徐々に大きく、そして言葉がしっかりしていった。

 発言が終わると、光一が「なるほど、それ面白いですね」と、自然に話をつなげた。

 聞くことは、立派な参加だ。その姿勢が、誰かの勇気を支えている。

 グループワークは、話すだけの場じゃない。聞く力が、チームの空気をつくるのだ。

2025年7月6日日曜日

就活物語「周囲を巻き込める子」

就活物語
「周囲を巻き込める子」


 インターン最終日が近づいたある日、チーム課題が行き詰まりを見せていた。意見が出ず、議論が止まり、全体が沈んだ空気に。

 そんな中、ミサキがふと周囲に声をかけた。

 「ちょっと一回、深呼吸しません? 飲み物取りに行きながら気分転換しましょう!」

 場がふっと和らいだ。彼女はその後も、意見が出ていないメンバーに「○○さんならどう思う?」と自然に振っていた。押しつけがましくなく、でも確実にチーム全体の空気を動かしていた。

 最終発表では、チーム全員が自分の役割に誇りを持ち、堂々とプレゼンしていた。振り返ると、それはあの日の“ミサキのひと言”から始まっていた気がする。

 リーダーシップとは、前に立つことだけじゃない。周囲の状態を見て、自分ができることをさりげなく実行する力。それが、ミサキにはあった。

 彼女のような存在がチームにいれば、どんな仕事でも前向きに進められるだろう。

そんな確信が、心の中に残っていた。

2025年7月5日土曜日

就職物語「フィードバックを活かす子」

就職物語
「フィードバックを活かす子」


 インターン2日目、報告書を提出してきたリョウの資料を読んだ私は、率直にこう伝えた。

 「丁寧だけど、ちょっと要点が見えづらいかな。図や箇条書きを使ってもいいかもしれないね」

 彼は深くうなずき、ノートにメモを取っていた。

 正直、その時は「少し気をつけてくれれば十分」と思っていたのだが、翌日届いた報告書を見て驚いた。前日と見違えるように構成が整理され、図解も加えられていて、視覚的にも内容が伝わりやすくなっていたのだ。たった一日で、ここまで反映させるとは。

 「昨日のアドバイス、とても勉強になりました」と、リョウは照れくさそうに笑って言った。

 人は誰でも指摘されるのは苦手だ。でも、それを素直に受け止めて、自分の成長につなげようとする姿勢があるかどうかで、その先は大きく変わっていく。

 吸収力のある人は、短期間でも確実に伸びていく。

 「この子と、また一緒に仕事がしたいな」

そう思えたのは、報告書の出来ではなく、改善しようとする“姿勢”に心を打たれたからだ。

2025年7月4日金曜日

就活におけるグループワーク)【第10話】気づける人が、空気を変える

【第10話】気づける人が、空気を変える


 「じゃあ、誰から話す?」

 司会の声に、視線が交差する。誰もが譲り合って沈黙するなか、片隅の優衣が、小さな声で言った。

 「…○○さん、さっき何か言いかけてませんでした?」

 指された男子学生は驚きながらも、「あ、うん…」と話し出した。そこから流れが生まれ、全体の議論がやわらかく広がっていった。

 誰よりも先に発言したわけじゃない。目立った役割もしていない。

 でも、“誰かの声にならなかった声”に気づき、そっと拾い上げるその姿は、確かにチームを動かしていた。

 グループワークで重要なのは、大きな声よりも、小さな変化に気づける力かもしれない。

就活におけるグループワーク)【第9話】「まとめる力」は、経験から生まれる

【第9話】「まとめる力」は、経験から生まれる


 「えっと……じゃあ、まとめをお願いします」

 突然振られた蒼太は、一瞬言葉に詰まった。全員の意見は出たが、収拾がついているとは言いがたい。

 頭の中でぐるぐると思考が回る。何を拾って、どうつなげばいい?

 沈黙のあと、蒼太はゆっくり口を開いた。

 「たとえば、〇〇さんの意見と、△△さんの意見って、一見違うように見えるけど──」

 丁寧に言葉を紡いでいくうちに、メンバーの表情がやわらぎ、うなずきが増えていく。

 終わったあと、誰かが言った。

 「すごい、ちゃんと全部つながったね」

 蒼太は思った。自分は目立つタイプじゃない。でも、よく聞いて、全体を見て、それを“つなぐ”ことができる。

 それも立派な「強み」なんだ。

2025年7月3日木曜日

就活におけるグループワーク)【第8話】沈黙の役割

【第8話】沈黙の役割


 議論が盛り上がっている。誰かが意見を出すと、すぐに別の誰かが反応して、どんどん話が展開していく。

 その中で、一言も話さずにうなずくだけの千佳。周囲から見れば、何もしていないように映っていたかもしれない。

 でも──

 「さっきの話、千佳さんがうなずいてたところ、私もすごく共感しました」

 その言葉に、場が一瞬、止まった。そして千佳は静かに口を開いた。

 「みんなの意見を、ちゃんと聞いていたくて…でも、私なりに考えていたこともあって──」

 そこから千佳の言葉が、全体の議論を整理し、深めていった。

 発言だけが貢献じゃない。耳を傾け、必要なときに言葉を選んで話す力が、チームにとって大きな支えになることもある。

就活におけるグループワーク)【第7話】「それ、さっきも言ってたよ」

【第7話】「それ、さっきも言ってたよ」


 「つまり、まとめると──」

 慎也が話し出した瞬間、隣の葵がぽつりと言った。

 「それ、さっきも言ってたよ」

 空気が一瞬、凍った。

 慎也の手が止まり、視線が泳ぐ。メンバーの誰かが、空のペットボトルを指でカラカラと転がした。

 でも葵は続けた。「でも、そこ大事ってことだよね。何回も出てくるってことは」

 その一言で、空気がやわらいだ。慎也もうなずき、「じゃあ、その点を軸にしてまとめようか」と笑った。

 グループワークでは、つい自分の発言に必死になる。でも、誰かの声を受け止める力が、場の流れを変えていく。

 葵の“ツンデレ的フォロー”が、チームに小さな安心を生んだ。

2025年7月2日水曜日

就活におけるグループワーク)【第6話】意見がぶつかるとき

【第6話】意見がぶつかるとき


 「え、それはちょっと違うと思います」

 真剣な表情でそう言ったのは、理沙だった。彼女の向かいに座る悠人が、少し言葉に詰まる。

 空気がぴりっと緊張する。周囲の3人も一瞬黙りこくり、視線を下げた。

 でも理沙は続けた。「たぶん私の視点がズレてるかもしれないから、もう一度整理して話してもいいですか?」

 そのひとことに、場の空気が少しやわらぐ。

 議論が白熱しても、「否定」ではなく「対話」にする姿勢が、チームを崩さずに深めてくれる。

 その後、グループは理沙の視点と悠人の意見を融合し、新たな結論にたどり着いた。

 意見がぶつかるのは、悪いことじゃない。むしろそこにこそ、チームでやる意味があるのだ。 

就活におけるグループワーク)【第5話】笑ったら、うまくいった

【第5話】笑ったら、うまくいった


 「制限時間、あと5分です」

 焦りの気配が、テーブルの上にじわりと広がる。意見は出尽くし、結論がまとまらないまま、時間だけが過ぎていく。

 そのとき、緊張でこわばっていた美優が、ふと苦笑いして言った。

 「ごめん、ちょっと混乱してきた…!誰か、今なに話してるか教えてくれる?」

 その言葉に、思わず全員が吹き出した。

 「いや、実は俺も整理できてなくてさ…」

 笑いながら、もう一度話を振り返る空気が生まれた。そこからは不思議と、会話がなめらかに流れ出した。

 グループワークって、真面目なだけじゃうまくいかない。人と人の間に「素の笑い」が流れたとき、チームは一気に動き出す。 

就活におけるグループワーク)【第46話】「沈黙の勇気」

【第46話】「沈黙の勇気」  「じゃあ、次はアイデア出しに入ろうか」リーダーの真紀が言うと、場に静寂が落ちた。誰もが何か言わなきゃと思っているのに、言葉が出てこない。  そんな中、黙っていた遥が、意を決したようにノートを開いた。「あの……こんな案、どうですか?」その声は小さかった...