2025年7月11日金曜日

就活におけるグループワーク)【第20話】最後のひとことが、すべてを変える

【第20話】最後のひとことが、すべてを変える


 「もう時間ですね。発表、どうまとめましょう?」

 残り時間5分。誰かが代表して発表内容をまとめようとするが、うまく整理ができず、全員が焦っていた。

 そんなとき、隅で静かにしていた圭吾が、ぽつりとつぶやいた。

 「結局、“働きやすさ”って、“選べる自由”なんじゃないかな」

 それは、議論の中でバラバラだった意見をつなぐ、たったひとつの軸だった。

 全員が「それだ!」と膝を打ち、瞬く間に発表の構成が決まっていった。

 会話の中心にならなくても、誰かが最後に放った一言が、チームの核心になることがある。

 グループワークにおいて、「遅すぎる言葉」なんて存在しないのだ。

就活におけるグループワーク)【第19話】“発言しない”という選択もある

【第19話】“発言しない”という選択もある


 グループディスカッションが始まり、メンバーたちは次々に意見を出していった。

 その中で、一言も発しない千聖。

 司会が「千聖さん、どうですか?」と振っても、「今は特に…」と控えめに返すだけ。

 「何も考えていないのかな」と誰かが思った──そのとき。

 終了後、企業担当者が言った。

 「みなさんのやりとりを観察していました。発言の量ではなく、相手の話をどう受け止めているかが大事です」

 千聖は終始、相手の目を見て、うなずき、メモをとっていた。その姿勢は確かに“参加”していた。

 グループワークは、声の大きさで勝負する場じゃない。“聞く力”だって、立派な評価対象だ。

2025年7月10日木曜日

就活におけるグループワーク)【第18話】うまく話せなかったけど、伝わった

【第18話】うまく話せなかったけど、伝わった


 話す順番が回ってくるのが怖かった。

 楓は、グループワークでうまく話せた試しがなかった。声が小さくなり、言いたいことの半分も言えずに終わることが多かった。

 今回もそうだった。途中で言葉に詰まり、「あ、すみません」と目を伏せて終えてしまった。

 ところが──

 「さっきの話、もっと詳しく聞きたいです」と言ったのは、隣にいた咲人だった。

 「表現がすごくリアルだったから、逆に印象に残った」

 そのひとことで、胸がじんわりとあたたかくなった。

 話すのが得意じゃなくても、心から出た言葉は、ちゃんと誰かに届いている。

 グループワークで大切なのは、上手さじゃなく、“まっすぐさ”なのかもしれない。

就活におけるグループワーク)【第17話】自分の「ふつう」は、誰かの「すごい」

【第17話】自分の「ふつう」は、誰かの「すごい」


 「このテーマ、難しいですね…」

 議題は「新しい働き方」。みんながスマートに意見を出すなか、麻衣はなかなか言葉が出なかった。

 ようやく発言したのは、終盤だった。

 「私は、地元の商店街でアルバイトしてるんですけど、お客さんとの会話が仕事の一部で…。そういう“雑談”がある働き方って、案外大事かもって思いました」

 静かに語ったその言葉に、メンバーが一斉にうなずいた。

 「それ、いい視点ですね」

「確かに。デジタルじゃ代替できない部分かも」

 麻衣が当たり前だと思っていた日常は、他の誰かにとっての“新鮮な気づき”だった。

 グループワークでは、「特別な経験」よりも、自分の“ふつう”をどう語るかが、力になる。

2025年7月9日水曜日

就活におけるグループワーク)【第16話】役割がなくても、価値はある

【第16話】役割がなくても、価値はある


 「じゃあ、進行は私がやるね」「発表は俺がいくよ」

 テキパキと決まっていく役割分担。気づけば、春翔には何も残っていなかった。

 「自分がいなくても、このチームは回るな……」

 そう思ったとき、少しだけ胸がチクッとした。

 でも議論が進むうちに、春翔は小さな「問い」を投げかけるようにした。

 「それって、こういう意味?」「さっきの話とつながるかも」

 気づけば、誰かの意見を深めたり、議論の流れをつなげたりしていた。

 「春翔くんの質問、めっちゃありがたかった」

 最後に言われたその言葉に、不意に胸があたたかくなった。

 役割がないことは、無価値じゃない。自分にしかできない関わり方が、きっとある。

就活におけるグループワーク)【第15話】「何もしてない」は、本当に何もしてないのか?

【第15話】「何もしてない」は、本当に何もしてないのか?


 「ごめん、私…今日は何もできなかった気がする」

 グループワークが終わったあと、静かにつぶやいたのは遥だった。

 たしかに、リーダーをしたわけでもない。発表を担当したわけでもない。

 でも、周囲の誰かが詰まりかけたとき、遥はさりげなくペンを差し出し、メモを取って渡し、水を取ってあげていた。

 空気が張りつめた瞬間には「まあまあ」と笑って場をやわらげていた。

 それに気づいたメンバーのひとりが、帰り際に言った。

 「遥ちゃん、今日めちゃくちゃ助かったよ。いないとまとまらなかったと思う」

 「何もしてない」なんてことは、きっとない。誰かの見えない働きが、チームをちゃんと動かしている。

2025年7月8日火曜日

就活におけるグループワーク)【第14話】「書く」ことで、つながる

【第14話】「書く」ことで、つながる


 話し合いが始まってしばらくしても、議論はどこかかみ合わなかった。

 誰かが話せば誰かがかぶせ、意見の方向もバラバラ。焦る空気だけがテーブルを覆っていた。

 そのとき、メモをとり続けていた奈々が、ノートをくるりと裏返して皆に見せた。

 「今まで出た意見を、こんな感じで整理してみたんだけど──」

 そこには、矢印とキーワードでつながれた図があった。

 「この二つ、実は似てるかもって思って」

 その図を見て、全員の視線が一点に集まる。そして「たしかに!」と、次々に反応が返ってきた。

 “話す”ことばかりに集中していたグループが、“見る”ことで初めてひとつになった瞬間だった。

就活におけるグループワーク)【第20話】最後のひとことが、すべてを変える

【第20話】最後のひとことが、すべてを変える  「もう時間ですね。発表、どうまとめましょう?」  残り時間5分。誰かが代表して発表内容をまとめようとするが、うまく整理ができず、全員が焦っていた。  そんなとき、隅で静かにしていた圭吾が、ぽつりとつぶやいた。  「結局、“働きやすさ...