就活物語
「六十社目の春」
春の終わり、大学の就活掲示板にひとりの学生がそっと手紙を貼った。
「この度、ようやく内定をいただきました。実は、これが60社目の応募でした。」
彼の名はタクミ。真面目で口下手な青年。最初の頃は、数社の不合格通知に心が折れかけた。周りの友人が次々と内定をもらう中で、「自分は価値がないのかもしれない」と何度も思った。それでも彼は、毎回の面接を思い返し、自分の伝え方や表情、受け答えを振り返っては改善を重ね、エントリーシートの表現にも工夫を加えていった。
ある日、彼が尊敬する教授が言った。
「タクミ、不合格は“否定”じゃない。“今のままでは合わなかった”というだけだ。そこにヒントがある。」
その言葉に支えられ、タクミは不合格の理由を自分なりに分析し続けた。人に頼ることが苦手だった彼は、思い切ってキャリアセンターに通い、模擬面接を繰り返した。落ちるたびに、なぜ落ちたかを問い直し、少しずつ“自分らしい表現”を見つけていった。
そして60社目。ある企業の面接で、彼はこう語った。
「私は、多くの不合格を経験しました。でも、それを一つひとつ見つめ直す中で、少しずつ成長してきた実感があります。私は失敗を恐れずに改善を続けられる人間です。」
その言葉に、面接官の表情が変わった。
——そして数日後、彼に初めての内定通知が届いた。
「不合格の数だけ、自分を知った」と彼は言う。
“合わなかった”理由を、決して“自分がダメだから”と受け止めず、“どうすれば伝わるか”と問い続けたその姿勢が、いつしか最大の武器になった。
だから今、彼は伝える。
「不合格は、終わりじゃない。次に進むためのヒントだよ。」
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