就活物語
「読みたくなる履歴書」
人事部で採用を担当して十年。春になると、デスクの上に山のような履歴書が届く。新卒採用の時期だ。会社説明会では、毎回一生懸命に話す。会社の強み、働く魅力、求める人物像——。それでも、いざ提出された履歴書を見ると、心が沈む。
正直に言おう。届いた履歴書の半分は、「読もう」と思えない。志望動機の欄には、「成長できる環境を求めている」とか、「御社の業界に興味があります」といった、どの会社にも通用するような言葉が並ぶ。これが、あの説明会に参加してくれていた学生の書いたものかと思うと、虚しさがこみ上げてくる。
説明会で目を輝かせていたあの学生も、履歴書では“その他大勢”になってしまう。
ある日、ふと手に取った一枚の履歴書。書き出しに「父が長年、御社の製品を愛用しており…」とあった。目を引かれた。読み進めると、彼女はその経験から商品に興味を持ち、自分でも調べ、大学のゼミで関連するテーマに取り組んだという。心に残った。話してみたい、と思った。
そう、読みたくなる履歴書には、「その人らしさ」がある。「なぜこの会社なのか」「どこに共感したのか」が、自分の経験や気持ちと結びついて書かれている。それが伝わると、採用担当者も“その人”をもっと知りたくなる。
企業の説明会でどれだけ想いを語っても、それを受け取って、自分の言葉で返してくれなければ、つながりは生まれない。
学生たちに伝えたい。就活は、無難さを競う場ではない。自分の想いを「あなたの言葉」でぶつけてほしい。それが伝わったとき、履歴書は「紙」ではなく「声」になるのだから。
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