就活物語
「説明会で座っているだけだった私」
ナナは、就活が始まってからいくつもの会社説明会に参加していた。遅刻もせず、話もきちんと聞いていた。ノートには企業名や印象的な言葉がびっしりと書かれている。
なのに、ある日、大学の就活支援室で言われた。
「ナナさん、企業から“消極的”って言われることがあるみたいよ。」
信じられなかった。「こんなに真面目に取り組んでるのに…」と、思わず心の中でつぶやいた。
数日後の説明会。ナナは、隣の席に座った男子学生の姿に目を奪われた。
彼は、話を聞くたびにうなずき、メモを取る手も止まらない。そして質疑応答の時間には、真っ先に手を挙げて質問していた。
「ああ、これか…」
ナナは、自分の姿を思い返した。話の途中で下を向きっぱなし。目線も泳ぎ、質問タイムにはいつも沈黙していた。「聞いていた」はずだった。でも、外からは“ただ座っているだけ”に見えていたのかもしれない。
それから、ナナは少しずつ行動を変え始めた。
ノートに書くのはもちろん、顔を上げて目を見て話を聞くようにした。うなずきながら反応を返し、「質問しよう」と決めて一つは事前に準備して臨んだ。
最初はぎこちなかった。勇気も必要だった。
でも、不思議と相手の話も頭に入ってくるようになり、質問を通じて自分の興味や考えも深まっていった。
数週間後、とある企業の方が言ってくれた。
「説明会のとき、前向きな姿勢が印象的でしたよ。」
内側に“やる気”があっても、それが伝わらなければ意味がない。
“伝える姿勢”こそが、ナナにとっての一歩だった。
そう気づいたナナは、次の説明会に向かって、まっすぐに歩き出した。
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