就活物語
「誰の言葉で語っているのか」
人事部で採用を担当している私は、ここ数年、応募書類にある“共通点”が増えてきたことに気づいていた。
以前は、学校が作成した「内定者の志望動機集」からの引用が目立った。文末の表現や構成が妙に揃っていたり、企業名だけを差し替えたような文が並んでいたり。経験を聞いても、自分の言葉で語れない学生が少なくなかった。
だが最近、様子が少し違う。
一見、文は整っている。語彙も洗練されていて、読みやすい。しかし、読めば読むほど、どこか“心”がない。なぜか別の応募者の文と構成がほぼ同じだったり、言い回しが機械的だったり。違う学生から届いた志望動機なのに、まるで同じ人が書いたように感じることがある。
「これは…生成AIか」
そう気づいたのは、ChatGPTの存在を知ってからだった。試しに「御社に志望する理由を教えてください」と打ち込んでみた。返ってきたのは、最近よく見るようになった“きれいな、けれど空っぽな”言葉たちだった。
AIを使うなとは言わない。むしろ、活用できる力はこれから必要になる。だが、そのまま貼り付けたような志望動機に、あなた自身の意思はあるのか?
自分の経験、自分の気づき、自分の言葉。そこにこそ、採用担当者は「人」を見出す。完璧じゃなくていい。拙くても、その人の視点が宿っていれば、心に引っかかる。
「あなたは、誰の言葉で語っているのですか?」
私は今日も、履歴書をめくる。
探しているのは、流暢な文章ではない。自分の言葉で、未来を語ろうとする学生なのだ。
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