就活物語
「惹かれるか、引っ張るか」
人事部で採用を担当している私は、今日もまた何通もの履歴書に目を通していた。
今年も「御社の安定した業績に惹かれました」という言葉が並ぶ。
それは、ありがたい。私たちが積み重ねてきた努力が、学生たちに届いているということだ。
だが、どこか引っかかる。
“惹かれた”というその言葉に、未来への意志が感じられないのだ。
まるで、すでに完成された場所にただ乗せてほしい、というような印象を受ける。
もちろん、誰だって安定した会社で働きたい。そこに疑いはない。
しかし、私たちが本当に求めているのは、「この業績をさらに前に進めたい」と思える人。
完成された場所に身を置くのではなく、未完成の部分に手を伸ばそうとする人なのだ。
そんなとき、一通の履歴書に目が留まった。
志望動機の欄に、こんな一文があった。
「私は、貴社の地域密着型の営業展開には強みと同時に課題もあると感じました。学生時代に取り組んだ地域活性プロジェクトの経験を活かし、さらなる展開の可能性を広げていきたいと思っています。」
──この一文が、他の学生とは違って見えた。
“安定”に寄りかかろうとせず、“挑戦”の中に自分の居場所を見出している。
その視点が、私たちのチームを支え、時に引っ張ってくれるかもしれない。
そう思った瞬間、この学生に会ってみたい、と心から感じた。
企業は完成形ではない。変化する社会の中で、常に磨き、育て、守るべきものだ。
だからこそ、“何ができるか”を考える人、“一緒に築いていく”意志を持つ人と出会いたい。
私は今日も履歴書をめくる。
“惹かれた”理由ではなく、“引っ張りたい”理由を探しながら。
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