就活物語
「目を見て話せなかった僕へ」
面接を終えたアユムは、駅に向かう道すがら、何とも言えない違和感を抱えていた。
面接官の表情が、途中から曇っていた。最初は笑顔だったのに、次第に目線を外され、話が早々に切り上げられた。
そして後日届いた結果は「不合格」。その理由には、「やる気が感じられなかった」とあった。
「なんで? あんなに準備したのに。必死だったのに…」
落ち込みながらも、アユムはふと自分の面接の様子を思い出してみた。声が小さく、視線も定まらず、表情も強張っていた気がする。自分では精一杯のつもりでも、その熱意は外には伝わっていなかったのだ。
「やる気って、気持ちだけじゃダメなのかもしれない」
そう思った彼は、翌日から小さな努力を始めた。まずは鏡の前で笑顔の練習。口角を上げることにこんなに神経を使ったのは初めてだった。次に、友人にお願いして模擬面接を繰り返した。話す内容は問題ないと言われたが、「感情が伝わらない」「表情が固い」という指摘が返ってきた。
そこから彼は、“話す内容”ではなく、“話し方”そのものを見直した。話すときは相手の目を見る。声のトーンに強弱をつける。時に頷き、時に少し笑顔を添える。自分を表現するのは言葉だけじゃないと、少しずつ実感し始めた。
そして迎えた次の面接。アユムは、意識して面接官の目を見て話し、自分の想いを丁寧に届けた。結果は…「熱意が伝わってきた」と、初めて言われた言葉だった。
やる気がないんじゃない。やる気の“見せ方”を知らなかっただけだった。
不器用でもいい。少しずつでも伝えようとする姿勢が、きっと誰かに届く。
そう気づいたアユムは、もう一度前を向いた。
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