就活物語「エントリーシートの空白」
「先生、ユウタって知ってます? 実習先でも好評で、ああいう学生が現場に入ってくれたらって、言われてましたよ」
そんなふうに語られる学生が、書類選考で落ちてしまう。就職指導室では珍しい話じゃない。でも、今回はその“落差”が大きすぎた。
私はユウタのエントリーシートを開いてみた。
きれいな文字。文法も整っていて、読みやすい。けれど、何も残らない。どこにでもいるような言葉ばかりが並んでいて、彼自身の顔が見えてこなかった。
ユウタは、スポーツトレーナーを目指している。実習では、認知症を抱えた高齢者の方に寄り添い、根気強く関わったと聞いている。子どものリハビリを手伝ったときも、保護者から「この子が一番安心できた」と言われたという話も知っていた。
けれど、そのどれもが、このエントリーシートには書かれていなかった。
「どうして、相談に来なかったのかな…」
もし来てくれていたら、「この経験は強みになるよ」と伝えられた。言葉の整理を手伝うことで、彼の優しさや実直さは、もっと伝わる文章になったはずだ。
エントリーシートは、文章力だけじゃない。誰と話しながら書いたか、何を振り返ったかで、その中身がまったく変わってくる。ユウタのような学生こそ、一緒に言葉を探していきたかった。
きっと、本人は「これで十分」と思っていたのだろう。でも、“十分”だったかどうかは、自分では判断しにくいものだ。
就職支援って、“余計なお世話”に聞こえることもある。けれど、あのとき相談に来てくれていたら。今も、そう思わずにはいられない。