【第4話】“長所”が思いつかない
「あなたの長所を教えてください」
エントリーシートの問いに、慧(けい)は鉛筆を握ったまま止まっていた。
明るいわけでも、リーダータイプでもない。真面目とか責任感があるとか、そんな“テンプレート”な言葉を並べても、嘘になる気がした。
ふと視線を上げると、机の隅にある古びた工具箱が目に入った。中身は、祖父の残した道具。壊れた家電を直すのが好きだった慧は、よく一人で分解しては組み立てていた。
「あきらめずに、最後までやるってことか……」
誰かに見せるためではなく、自分の中にずっとあったもの。
それが“長所”でなくて、何だろう。
慧は鉛筆を持ち直し、少しだけ誇らしげな顔で、ゆっくりと書き始めた。
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