【第3話】証明写真、笑えない理由
駅前の写真機の前で、美咲は鏡を覗き込んでいた。今日こそは証明写真を撮ろうと決めたのに、なぜかカメラの前に立つと顔がこわばる。
「笑って」と自分に言い聞かせる。でも、うまく笑えない。ほんの数センチの四角い世界に、“私らしさ”を収めようとすればするほど、どこか不自然になる。
「私は、誰に見せようとしてるんだろう?」
ふと思った。企業の人? 友達? 親? それとも“就活生らしい”自分?
もう一度、深呼吸してから座る。今回は、カメラに話しかけるつもりで。心の中で「こんにちは」とつぶやく。
シャッターの音が静かに響く。画面に映った写真には、少しだけ柔らかくなった笑顔の美咲がいた。
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