【第34話】空白を見つめる時間
「趣味・特技」の欄が、ぽっかりと空いている。
椿は、ペンを握ったまま動けなくなっていた。
周りの友達はみんな、スポーツや資格の話を書いている。自分には、そんな立派なものなんてない。そう思うと、空欄がどんどん重たくなっていく。
だけど、椿は少しずつ思い出していった。小さなころから続けていた朝のラジオ体操、毎週録画して観ているドラマ、友達の誕生日に手紙を送る習慣。
「……これも、“自分らしさ”かも」
特技じゃなくていい。好きなこと、大切にしてることを、まっすぐに書いてみよう。
椿はゆっくりと、一文字ずつ書き始めた。空欄が、自分の言葉で埋まっていくのが、なんだかうれしかった。
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