【第9話】書き出しだけで30分
エントリーシートの「自己PR欄」の1行目を前に、航太はため息をついた。書き出しの言葉が、どうしても決まらない。
「私は……」「これまで……」「自分の強みは……」
何度もタイプしては消して、気づけば30分。1文字も進んでいない。
けれど、ふとスマホのメモに残していた過去の言葉を見つけた。部活の最後の大会前に書いた、自分へのメッセージ。
《やってきたことを信じろ。自分の言葉で、ちゃんと伝えろ》
画面を見つめながら、航太は笑った。書き出しは、格好つけなくていい。ただ、自分に正直であれば。
ゆっくりと、キーボードに向かう。1文字目が打てた瞬間、心のもやもやが少しだけ晴れていた。
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