【第8話】「趣味:読書」と書いてから
「趣味:読書」と書いた瞬間、手が止まった。
本を読むのは本当。でも、それだけでいいのだろうか。説明会で「最近読んだ本は?」と聞かれて、答えに詰まったことを思い出した。
読書という言葉は、安心する。でも、自分のことを語るには、少し曖昧すぎるのかもしれない。
それでも――彼女の中に残っていた1冊の記憶があった。高校時代に読んだ小さな文庫本。何度もページをめくり、折り目をつけた言葉たち。
あのときの気持ちは、まだ胸の奥に残っている。そう思ったとき、「趣味:読書」の後ろに、「特に心に残った一冊について」と言葉を加えた。
趣味は、単なる飾りじゃない。自分の輪郭を、そっと照らしてくれるものなのだ。
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