2025年6月7日土曜日

就活物語「指示の先を読める子」

就活物語
「指示の先を読める子」


 夏のインターン最終日。私は参加学生のアンケートを回収しながら、一人の学生のことを思い返していた。名前はコウタ。目立つタイプではなかったが、彼の動きはいつも静かに周囲を支えていた。

 たとえば、ある日。現場社員が資料の印刷で手間取っていたとき、コウタは「自分がコピー室に行ってきます」と声をかけた。言われたわけではない。けれど、必要なタイミングで、必要な行動をしていた。しかもそれを“当然”のようにこなす。

 他の学生たちは、決められたタスクはこなすが、それ以上のことには踏み込まなかった。だがコウタは、自分の役割だけでなく、周囲がうまく回るように気を配っていた。

 最後の振り返りで彼はこう言った。

 「周囲を見る余裕が、少しずつ出てきました。社会に出たら、目の前の仕事だけでなく、チーム全体を見ることも大事だと思いました。」

 その言葉に、私は驚かなかった。すでに彼は、実践していたからだ。

 “地味だけど頼れる”というのは、実は組織にとって一番大事な存在だ。

 採用担当として、一緒に働きたいと思った。派手な成果よりも、“空気のように動ける”力が、職場では何よりも価値を持つことを、彼は自然に示していた。

0 件のコメント:

コメントを投稿

「“できたね”の笑顔が、チームのはじまり」

 内定者研修の二日目。 グループワークのテーマは「新入社員としての理想の働き方」。  真央たちは四人チームで、模造紙に意見を書き出していた。 最初はぎこちなかった会話も、少しずつ笑いが増えていく。 「その言い方いいね」「それ、まとめよう!」―― アイデアが重なり、紙の上に一つの形...