就活物語
「指示の先を読める子」
夏のインターン最終日。私は参加学生のアンケートを回収しながら、一人の学生のことを思い返していた。名前はコウタ。目立つタイプではなかったが、彼の動きはいつも静かに周囲を支えていた。
たとえば、ある日。現場社員が資料の印刷で手間取っていたとき、コウタは「自分がコピー室に行ってきます」と声をかけた。言われたわけではない。けれど、必要なタイミングで、必要な行動をしていた。しかもそれを“当然”のようにこなす。
他の学生たちは、決められたタスクはこなすが、それ以上のことには踏み込まなかった。だがコウタは、自分の役割だけでなく、周囲がうまく回るように気を配っていた。
最後の振り返りで彼はこう言った。
「周囲を見る余裕が、少しずつ出てきました。社会に出たら、目の前の仕事だけでなく、チーム全体を見ることも大事だと思いました。」
その言葉に、私は驚かなかった。すでに彼は、実践していたからだ。
“地味だけど頼れる”というのは、実は組織にとって一番大事な存在だ。
採用担当として、一緒に働きたいと思った。派手な成果よりも、“空気のように動ける”力が、職場では何よりも価値を持つことを、彼は自然に示していた。
0 件のコメント:
コメントを投稿