【第31話】「書けない」じゃなくて「まだ言葉になっていない」だけ
履歴書の志望動機欄を前に、鉛筆をくるくる回しながら、佐々木はため息をついた。
「なぜこの会社なのか…なんでだっけ…?」
頭の中にはいろんな思いがあるのに、それを“書ける日本語”にするのがむずかしい。うまく言おうとすればするほど、手が止まる。
ふと、横に置いたノートを見た。そこには、友達と話したときに書きとめたメモがあった。
「人の話を丁寧に聞ける自分を、仕事に活かしたい」
「この会社の人の雰囲気が、自分には合う気がする」
これでいいんだ。立派な文章じゃなくても、自分の想いがにじむ言葉なら、ちゃんと伝わるはず。
佐々木は、消しゴムで志望動機欄の上をゆっくり消し、もう一度書き始めた。
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