2026年10月18日日曜日

それぞれの、働く理由|仕事を選んだ理由|私がこの仕事を選んだ理由


 「どうして、この仕事を選んだんですか?」

新人の職員からそう聞かれて、真由は少し考え込んだ。

 三十四歳。

介護施設で働き始めて、十年になる。

毎朝、利用者の体調を確認し、食事や入浴を手伝う。

一人ひとりの様子を見ながら、職員同士で声をかけ合う。

決して楽な仕事ではなかった。

体力を使う。

思うように休めない日もある。

利用者の小さな変化に気づけず、落ち込んだこともあった。

 「最初はね、家から近かったから。」

真由がそう答えると、新人は少し驚いた顔をした。

「もっと特別な理由があるのかと思っていました。」

真由は笑った。

 高校を卒業した頃、将来やりたい仕事が見つからなかった。

人の役に立つ仕事がしたいという気持ちはあった。

でも、介護の仕事に強い憧れがあったわけではない。

求人を見て、通いやすそうだと思い、応募した。

それが始まりだった。

 仕事を覚えるまでは、毎日が必死だった。

何度も辞めたいと思った。

それでも続けてこられたのは、ある利用者との出会いがあったからだ。

入職して間もない頃、真由は食事の介助がうまくできず、落ち込んでいた。

すると、その利用者が静かに言った。

「慌てなくていいよ。あなたが来てくれるだけで、うれしいんだから。」

その言葉を、今でも覚えている。

 ある日の午後。

真由が廊下を歩いていると、車椅子の利用者が手を振ってくれた。

「真由さん、今日は来てくれたのね。」

「はい。今日もよろしくお願いします。」

自然に笑顔になった。

 新人が隣で言った。

「真由さん、本当にこの仕事が好きなんですね。」

真由は少し考えてから答えた。

「最初から好きだったわけじゃないよ。」

「でも、続けているうちに、大切な仕事になったの。」

 仕事を選ぶ理由は、最初から立派でなくてもいい。

働く中で出会う人や経験によって、その理由が変わることもある。

十年前、何となく選んだ仕事。

今では、自分の人生に欠かせない仕事になっていた。


#仕事を選んだ理由
#介護の仕事
#働くやりがい 

0 件のコメント:

コメントを投稿

それぞれの、働く理由|仕事を選んだ理由|私がこの仕事を選んだ理由

 「どうして、この仕事を選んだんですか?」 新人の職員からそう聞かれて、真由は少し考え込んだ。  三十四歳。 介護施設で働き始めて、十年になる。 毎朝、利用者の体調を確認し、食事や入浴を手伝う。 一人ひとりの様子を見ながら、職員同士で声をかけ合う。 決して楽な仕事ではなかった。 ...