「また、昇進したんだ。」
スマートフォンの画面を見ながら、拓海は小さくつぶやいた。
大学時代の友人が、SNSに新しい役職の報告を投稿していた。
同じ三十歳。
同じ大学を卒業した友人たちは、それぞれの場所で活躍している。
管理職になった人。
独立して会社を立ち上げた人。
海外で働いている人。
一方、拓海は地方の小さな印刷会社で働いていた。
営業と制作の間に入り、納期を調整し、時には自分で印刷物を届ける。
特別な肩書きはない。
大きな成果を発表する機会もない。
「俺、何をやっているんだろう。」
そんな気持ちになることが増えていた。
ある日、長年取引している商店街の店主から電話があった。
「急で悪いんだけど、明日のチラシ、何とかならないかな。」
普段なら難しい依頼だった。
それでも拓海は、社内の担当者と相談し、できる範囲で調整した。
翌日、無事にチラシを届けることができた。
店主は何度も頭を下げた。
「本当に助かったよ。拓海くんが担当で良かった。」
帰り道、その言葉を思い出した。
友人たちのような華やかな仕事ではない。
誰かに自慢できるような肩書きもない。
でも、自分を必要としてくれる人がいる。
その事実に、今まであまり目を向けていなかった。
夜、再びSNSを開いた。
友人の投稿には、たくさんの祝福が集まっていた。
以前なら、焦りを感じていたかもしれない。
でも今日は、素直に「おめでとう」とコメントできた。
友人の成功は、友人のもの。
自分の仕事の価値まで決めるものではない。
もちろん、もっと成長したい気持ちはある。
いつか違う仕事に挑戦するかもしれない。
それでも今は、自分が積み重ねてきたものを大切にしたかった。
誰かより先に進むことではなく、昨日の自分より少し前へ。
拓海はスマートフォンを置き、明日の仕事の準備を始めた。
#他人との比較
#仕事の価値
#自分のペース

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