2026年10月4日日曜日

それぞれの、働く理由|他人との比較|誰かと比べるのをやめた日


 「また、昇進したんだ。」

スマートフォンの画面を見ながら、拓海は小さくつぶやいた。

大学時代の友人が、SNSに新しい役職の報告を投稿していた。

同じ三十歳。

同じ大学を卒業した友人たちは、それぞれの場所で活躍している。

管理職になった人。

独立して会社を立ち上げた人。

海外で働いている人。

 一方、拓海は地方の小さな印刷会社で働いていた。

営業と制作の間に入り、納期を調整し、時には自分で印刷物を届ける。

特別な肩書きはない。

大きな成果を発表する機会もない。

「俺、何をやっているんだろう。」

そんな気持ちになることが増えていた。

 ある日、長年取引している商店街の店主から電話があった。

「急で悪いんだけど、明日のチラシ、何とかならないかな。」

普段なら難しい依頼だった。

それでも拓海は、社内の担当者と相談し、できる範囲で調整した。

翌日、無事にチラシを届けることができた。

店主は何度も頭を下げた。

「本当に助かったよ。拓海くんが担当で良かった。」

 帰り道、その言葉を思い出した。

友人たちのような華やかな仕事ではない。

誰かに自慢できるような肩書きもない。

でも、自分を必要としてくれる人がいる。

その事実に、今まであまり目を向けていなかった。

 夜、再びSNSを開いた。

友人の投稿には、たくさんの祝福が集まっていた。

以前なら、焦りを感じていたかもしれない。

でも今日は、素直に「おめでとう」とコメントできた。

 友人の成功は、友人のもの。

自分の仕事の価値まで決めるものではない。

もちろん、もっと成長したい気持ちはある。

いつか違う仕事に挑戦するかもしれない。

 それでも今は、自分が積み重ねてきたものを大切にしたかった。

誰かより先に進むことではなく、昨日の自分より少し前へ。

拓海はスマートフォンを置き、明日の仕事の準備を始めた。


#他人との比較
#仕事の価値
#自分のペース 

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