――評価が割れた、その境目――
その学生の強みは、最初からはっきりしていた。
論理的で、説明も簡潔。質問に対しても要点を外さず、理解力の高さは誰もが認めていた。
「頭の回転が速い」「即戦力になりそうだ」
評価シートには、そんな言葉が並んでいた。
一方で、別の意見も出ていた。
「言葉は正しいけれど、感情が見えにくい」
「一緒に悩んだり、壁にぶつかったときの姿が想像しづらい」
面接中、彼は終始落ち着いていた。
失敗談も、成功談も、きれいに整理されている。
だがその分、どこか“完成しすぎている”印象が残った。
議論の焦点は、「成長の余白が見えるかどうか」だった。
能力は申し分ない。
ただ、現場では正解のない課題や、人との摩擦に向き合う場面も多い。
そのとき、彼はどう動くのだろうか――そこが最後まで見えなかった。
最終的に、合否を分けたのは、別の学生が見せた“不器用さ”だった。
未整理でも、自分の弱さを言葉にしようとする姿勢。
そこに、育てていける可能性を感じたという意見が、わずかに上回った。
結果は不採用。
だが、「能力だけなら文句はない」という言葉が、全員の共通認識だった。
面接では、強みがはっきりしていることが必ずしも有利とは限らない。
ときに、不安や未完成さが、“伸びしろ”として評価されることもある。
その微妙な境目に、私たちは確かに迷っていた。
#面接官の視点
#評価が割れた理由
#伸びしろ

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