――最後の一言、最後の笑顔が忘れられなかった――
面接というと、どうしても質疑応答の出来ばえに目が向きがちだ。
だが実際には、評価が大きく動く瞬間は、面接が終わった「その後」に訪れることもある。
その学生も、面接中はごく平均的な印象だった。
受け答えは丁寧で、準備不足というわけでもない。
ただ、決定打と呼べるほどの強い印象は残っていなかった。
面接終了を告げ、形式的なやり取りが終わる。
学生が立ち上がり、出口へ向かう――そのときだった。
彼はドアの前で一度立ち止まり、こちらを振り返った。
「本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。
とても緊張しましたが、お話できてうれしかったです。」
そう言って、柔らかく笑った。
作った言葉ではない。
面接官一人ひとりに向けた、素直な気持ちがそのまま表れていた。
ドアが閉まったあと、部屋に静けさが戻る。
誰かがぽつりと口にした。
「最後、すごく感じがよかったね。」
面接は、始まりよりも終わりの方が、人柄がにじみ出る。
別れ際の一言、最後の表情――
それは、評価表には書けないが、確かに心に残る要素だ。
――彼の笑顔は、面接の記憶を、静かに塗り替えていた。
#面接官の視点
#最後の印象
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