就活物語
「沈黙の中の誠実さ」
面接室のドアが静かに開いた。
入ってきたのは、少し緊張した様子の男子学生だった。目線を合わせ、丁寧にお辞儀をしてから「よろしくお願いします」と少し小さな声で言った。
自己紹介のあと、質問に入る。だが彼はすぐに言葉が出てこない。
何度か口を開きかけては、考え込むように沈黙する。私は内心、「大丈夫かな」と思いながらも、彼の表情を見ていた。そこには焦りよりも、**“言葉を選んでいる真剣さ”**があった。
「少し考えてもいいですか?」
その一言を、彼は小さな声で付け加えた。
やがて彼は、慎重に言葉をつむいだ。
「うまく答えられるかわかりませんが……」と前置きをして、自分の失敗体験と、そこから学んだことを丁寧に語った。派手な成果ではない。けれど一つひとつの言葉に嘘がないのが伝わってきた。
面接の最後に彼は深く頭を下げ、「緊張してしまって、伝えきれなかったかもしれません」と正直に言った。
その瞬間、私は確信した。――この学生は誠実だ、と。
面接とは、流暢に話す力を測る場ではない。
相手の前で、自分の言葉で、誠実に向き合えるかどうかを見ている。
結果通知を送るとき、私は迷わなかった。
彼のような人は、きっとどんな職場でも信頼を積み上げていくだろう。
沈黙の中に宿る誠実さ――それが、私の記憶に深く残った学生だった。
#面接官の視点
#誠実さが伝わる面接
#印象に残る学生
0 件のコメント:
コメントを投稿