2025年6月1日日曜日

就活物語「エントリーシートの空白」

就活物語「エントリーシートの空白」 


「先生、ユウタって知ってます? 実習先でも好評で、ああいう学生が現場に入ってくれたらって、言われてましたよ」

そんなふうに語られる学生が、書類選考で落ちてしまう。就職指導室では珍しい話じゃない。でも、今回はその“落差”が大きすぎた。

私はユウタのエントリーシートを開いてみた。

きれいな文字。文法も整っていて、読みやすい。けれど、何も残らない。どこにでもいるような言葉ばかりが並んでいて、彼自身の顔が見えてこなかった。

ユウタは、スポーツトレーナーを目指している。実習では、認知症を抱えた高齢者の方に寄り添い、根気強く関わったと聞いている。子どものリハビリを手伝ったときも、保護者から「この子が一番安心できた」と言われたという話も知っていた。

けれど、そのどれもが、このエントリーシートには書かれていなかった。

「どうして、相談に来なかったのかな…」

もし来てくれていたら、「この経験は強みになるよ」と伝えられた。言葉の整理を手伝うことで、彼の優しさや実直さは、もっと伝わる文章になったはずだ。

エントリーシートは、文章力だけじゃない。誰と話しながら書いたか、何を振り返ったかで、その中身がまったく変わってくる。ユウタのような学生こそ、一緒に言葉を探していきたかった。

きっと、本人は「これで十分」と思っていたのだろう。でも、“十分”だったかどうかは、自分では判断しにくいものだ。

就職支援って、“余計なお世話”に聞こえることもある。けれど、あのとき相談に来てくれていたら。今も、そう思わずにはいられない。

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