就活物語
「面接の前に、あと一言」
「先生、一次面接、落ちました。」
就職指導室にふらりと現れたのは、リナだった。控えめで真面目な学生。授業の出席も実習も完璧で、教員の間でも「手がかからない優等生」と評判だった。
「そうだったの…何があったのかな?」
「えっと…『あなたの強みを教えてください』って聞かれて。すぐに出てこなくて、とにかく“勉強を頑張ってきました”ってだけ伝えて…」
リナは、俯きがちに話した。
私は、実習担当の先生から聞いた言葉を思い出した。
「リナさんって、静かだけど芯がある。人一倍準備するし、チームの中でも着実に動ける子なんですよ」
それが、彼女の“強み”じゃないか。
何か派手なエピソードがある必要はない。毎日の積み重ねこそ、企業が知りたい“その人らしさ”だ。
「それ、面接で話せばよかったのに。準備の仕方や、どんなふうに努力してきたか。そういう“あなたのやり方”を伝えることが、自己PRなんだよ」
リナは、はっとした顔で小さくうなずいた。
「……相談すればよかったですね。面接前に、先生と話しておけばよかった」
就職指導室は、ただノウハウを教える場所じゃない。
その人の中にある魅力を、言葉として引き出す場所なんだ。面接で出せるかどうかは、準備だけではなく、誰かとの対話の中で整理できるかにもかかっている。
あのとき、たった一言でも背中を押せていたら。
その思いが、今も私の中に少しだけ残っている。
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