2025年5月31日土曜日

就活物語「面接の前に、あと一言」

就活物語
「面接の前に、あと一言」


「先生、一次面接、落ちました。」

就職指導室にふらりと現れたのは、リナだった。控えめで真面目な学生。授業の出席も実習も完璧で、教員の間でも「手がかからない優等生」と評判だった。

「そうだったの…何があったのかな?」

「えっと…『あなたの強みを教えてください』って聞かれて。すぐに出てこなくて、とにかく“勉強を頑張ってきました”ってだけ伝えて…」

リナは、俯きがちに話した。

私は、実習担当の先生から聞いた言葉を思い出した。

「リナさんって、静かだけど芯がある。人一倍準備するし、チームの中でも着実に動ける子なんですよ」

それが、彼女の“強み”じゃないか。

何か派手なエピソードがある必要はない。毎日の積み重ねこそ、企業が知りたい“その人らしさ”だ。

「それ、面接で話せばよかったのに。準備の仕方や、どんなふうに努力してきたか。そういう“あなたのやり方”を伝えることが、自己PRなんだよ」

リナは、はっとした顔で小さくうなずいた。

「……相談すればよかったですね。面接前に、先生と話しておけばよかった」

就職指導室は、ただノウハウを教える場所じゃない。

その人の中にある魅力を、言葉として引き出す場所なんだ。面接で出せるかどうかは、準備だけではなく、誰かとの対話の中で整理できるかにもかかっている。

あのとき、たった一言でも背中を押せていたら。

その思いが、今も私の中に少しだけ残っている。

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